さかなと森の観察園|中禅寺湖への外来鱒移植の歴史はここから始まった

観覧池 おすすめスポット
観覧池 モネの睡蓮を彷彿とさせます

【新着情報】2023年3月20日(月)から今期の営業を開始したそうです。

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今回は中禅寺湖のほとりにある『さかなと森の観察園』について紹介させていただきます。

この施設は明治23年(1890年)に旧宮内省くないしょうのふ化場として開設されて以来、実に130年以上もの長い歴史をもつ由緒ある施設になります。明治39年(1906年)には旧宮内省御料局直轄ごりょうきょくちょっかつの養魚場として生まれかわり、日本のサケ・マス類の種苗しゅびょう供給基地として58年間にもわたってその大きな役割をはたしてきました。まさに日本のサケ・マスたちの故郷ふるさととも言っていい場所になります。

もちろん、中禅寺湖に生息するますたち、特に外来ますたちの実質的なルーツ、はじまりの地でもありますので、中禅寺湖を愛する釣り人ならば必ず一度は訪れておきたい場所だといえるでしょう。

そんな鱒釣り愛好家にとってはとても縁の深い、「さかなと森の観察園」についてこのあと詳しく説明していきます。

この施設の魅力について

画像出典:さかなと森の観察園 案内図より

上の案内図にあるように「さかなと森の観察園」には大きく分けると次の3つの施設が存在しています。

  • たくさんの魚たちが泳ぐ観覧かんらん
  • 養魚場の歴史を知ることができる資料館
  • 日本の水産業や魚のことが学べるおさかな情報館

最初の観覧池では、主にサケ科の魚たちが元気に泳ぎまわっている姿を間近に見ることができます。しかも彼らに餌やりすることもできるので、ダントツの人気ナンバーワン施設になります(但し、餌やりができるのは、 観覧池と観察魚道のみ) 。

次の資料館については、名前のイメージからするとちょっと地味で面白みのない感じがするかも知れませんが、鱒の移植、特に日本の外来ます移植いしょくの歴史について興味があるという方にとっては、きっと面白いものが見つかるはずです。

そして最後のおさかな情報館では日本の水産業のことや魚の生態について楽しく学ぶためのたくさんのギミックなどが用意されてますので、夏休みの宿題をかかえたお子さんにはうってつけの施設だといえるでしょう。

施設の見どころ

それでは次に各施設の詳しい内容についてみていきましょう。

園内には、一般の入園者の立ち入りが禁止されている研究管理エリアという場所がありますので注意してください。

観覧池(他に展示水槽、飼育池、観察魚道など)

鱒たちへ餌やりもできる、大人も楽しめる癒し空間

観覧池は文字通りに魚たちを目で見て楽しむ屋外施設になります。
施設は中禅寺湖湖畔の広大な森の中にあります。樹木が強い日差しを遮ってくれるために、夏でも気温が低くとても快適に過ごすことができます。

魚を見ることのできる施設は展示水槽てんじすいそう飼育池しいくいけ観覧池かんらんいけ観察魚道かんさつぎょどうの4種類があり、元気に泳ぐたくさんの魚たちを間近に見ることができます。また、観覧池と観察魚道では魚たちへの餌やり(受付けでペレット餌がもらえます)もできるので、釣り好き&魚好きにはたまらない大迫力の食事シーンを堪能することができます。

もし中禅寺湖に釣りにきて狙いの魚が釣れなかった場合でも、ここへ魚を見にやってくれば少しは気持ちが晴れるかも知れませんね!

ちなみに、私が特に好きなのが観察魚道で、ここでは70cmを優に超えるような大型のレイクトラウトの姿を真横から観察することができます。中禅寺湖に釣りで10年以上通っている私でも、こんな横からの姿はなかなか見ることはできません。自然とはいえない特殊な環境下ではありますが、初めて目にした人にとっては大変貴重な体験になると思いますよ。

園内で見ることのできる魚たち
ヤマメ、サクラマス、アマゴ、イワナ、ヒメマス、レインボートラウト、スチールヘッド、ブルックトラウト、ブラウントラウト、レイクトラウト、チョウザメ(ベステル種)など

観覧池の写真ギャラリー

ギャラリー内の写真は観覧池のほんの一部を写したにすぎません。見どころは他にもたくさんあります。

資料館(旧日光養魚場庁舎)

外来鱒の移植の歴史を肌で感じられる施設

私がこの資料館(旧日光養魚場庁舎)でもっとも興味を引かれたのは、下の写真にある古びた一枚の書類です。これは合衆国の魚類委員会(United States Fish Commission)というところが発行したものなのですが、タイトルのところに「ブルックトラウトの卵 25,000粒」と書かれています。

その下には直筆で、おそらく △△様方の〇〇様宛のように宛名が書いてあると思うのですが、文字が薄くかすれていたため全てを読み取ることはできませんでした。そしてさらにその下には卵の取り扱いに関しての注意事項が印字されています。

そうなんです、この書類は合衆国の魚類委員会が発行した、ブルックトラウトの卵(もちろん生きている受精卵)の配送伝票とおぼしきものなんです。 参考までに英字原文と日本語訳を下に載せておきます。

当時(明治30年代~40年?)、貨物をアメリカから日本へ送るには航路がつかわれていた筈です。西海岸のカリフォルニアからホノルルを経由して3週間ほど掛かったなんて話を聞いたこともあります。電気をつかった冷蔵設備なども無い時代ですから、卵の温度管理には氷をつかっていたんですね。ちょっと想像しただけでも大変な作業だったことがうかがえます。

場長室に展示してある ブルックトラウトの卵 25,000粒のアメリカからの配送伝票。以下は英語原文と日本語訳。〇〇と△△の手書き部分はよく読めませんでした。私的にはレイクトラウトの同様の資料も見てみたいですね!

25,000 Brook Trout Eggs.
United States Fish Commission
For 〇〇
Care of △△
To insure the delivery of these eggs in good condition, it is neccessary that they should not, during transit, be exposed to a temperature higher than 50° Fahr, and should not be allowed to freeze.
This can be assured by renewing ice as needed in the ice chamber provided at the top of package.
Do not expose to freezing temperature.

ブルックトラウトの卵 25,000粒
合衆国魚類委員会
△△様方の〇〇様へ

これらの卵を良好な状態で届けるには輸送中に華氏50度(摂氏10度)以上の温度に晒してはならない。また凍らしてもならない。
この状態を保つには、パッケージの上部に設けられた氷室に、必要に応じて氷を補給すること。
卵を氷点下の温度に晒してはならない。
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ブルックトラウト(カワマス)といえば、明治35年(1902年)に トーマス・B・グラバー の命によって、日本で初めて湯川ゆかわに放流されたことで有名です。この書類のやり取りに、あのグラバーが関わっていたのかどうかは分かりませんが、おそらくグラバーが生きていたのと同時代のものであることは間違いないでしょう。

数々の伝記などで紹介されることの多いトーマス・B・グラバー。私の中ではまるでお伽話の登場人物みたいな存在でしたが、この書類を目にして実在した人物だったんだという実感が湧いてきました。当時のできごとに思いを巡らすことのできるとてもいい資料ではないでしょうか。

奥日光御料地と養魚場の歴史

貴賓室に展示されている「奥日光御料地と養魚場」の歴史年表  ※ 御料地とは皇室の所有地のこと

資料館の貴賓室きひんしつには、巨大な木板に「奥日光御料地ごりょうちと養魚場」と書かれた年表が展示されています。

そこには、1871年(明治4年)の奥日光地方の殺生禁断と女人禁制が解かれるから始まり、2001年(平成13年)の「 養魚場施設が独立行政法人水産総合研究センター発足により同法人所属の研究機関となる 」までの歴史が刻まれています。

中禅寺湖への鱒類移植の歴史や、奥日光に於ける観光近代化の流れについて大変よく理解することができます。 私はこれまでに釣りで何百回も中禅寺湖にはやって来てますが、知らなかったことも多くたいへん驚かされました。

この年表の内容を書き写したものを下に用意しましたので、 もし興味がありましたら目を通してみてください。

「奥日光御料地ごりょうちと養魚場」の歴史年表

西暦年号主な出来事/☆は養魚場の変遷
1871明治4奥日光地方の殺生禁断、女人禁制が解かれる
1873明治6星野定五郎が華厳の滝下流のイワナを初めて中禅寺湖に放流 -奥日光に初めて魚が泳ぐ-
1874明治7明治政府が外国人の国内旅行を許可する
1881明治14☆農商務省水産局が馬返の上流部深沢に孵化場を設置、翌年より北海道産のサクラマスと琵琶湖産ビワマスを中禅寺湖に放流する
1887明治20☆同水産局が北米産ニジマスを中禅寺湖に放流する
明治20年~中禅寺湖畔に外国人別荘が建ち始める
1888明治21☆奥日光官有地が御料地に編入
1889明治22人力車が通れるつづら折りの中禅寺坂完成
1890明治23東京-日光間に鉄路完成
☆宮内省が深沢の孵化場を菖蒲ヶ浜に移設
1902明治35トーマス・グラバーがパーレゥットに命じ、北米産カワマスを日本で初めて湯川に放流
日光地方を暴風雨が襲いほとんどの魚が流失
-某国公使が養魚事業の直営を宮内庁に懇願-
1906明治39☆宮内省が菖蒲ヶ浜の孵化場を全面改修し御料局直轄の養魚場を開設する(同年12月27日)
☆同年十和田湖産ヒメマスの発眼卵を移植する
1908明治41☆御料局が帝室林野管理局と改称される
1913大正2日光電気軌道(日光-馬返間の路面電車)完成
1914大正3☆帝室林野管理局東京支局養魚場となる
1916大正5菖蒲ヶ浜発電所設置(湯元方面に送電を開始)
1924大正13☆帝室林野管理局が帝室林野局と改称される
実業家ハンス・ハンターが内外の政財界・皇族らを募り釣りクラブ東京アングリングエンドカンツリー倶楽部を設立、西六番別荘(旧グラバー別荘)にクラブハウスを構え、千手ヶ浜に新たな孵化場を作る
1925大正14中禅寺坂の拡幅工事完成 -奥日光に自動車が走る
1929昭和4東武日光線(浅草-日光間)全線開通
1932昭和7馬返-明智平間ケーブルカー開通(日光登山鉄道)
1934昭和9日本初の国立公園指定(日光国立公園)
1940昭和15西六番別荘火災、「東京アングリングエンドカンツリー倶楽部」は事実上の活動停止(昭和19年解散)
1944昭和19☆皇太子殿下(現天皇)疎開中度々養魚場を訪問
1947昭和22☆財産税法施行により奥日光御料地(養魚場を含む林野)は国へ物納、林野は国有林となり、養魚場は水産庁日光養魚場となる
1949昭和24☆養魚場は水産庁日光養魚場となる
昭和21~45年頃戦後復興のため旧御料林の伐採が始まり、菖蒲ヶ浜に貯木場や製材所ができる
1954昭和29中禅寺坂を全面改修して国内2番目の有料道路「日光道路」が完成、通称「いろは坂」
1964昭和39☆水産庁日光養魚場が廃止され水産庁淡水区水産研究所日光支所が発足する
1965昭和40第2いろは坂・金精道路が開通
1979昭和54☆水産庁養殖研究所の発足により同支所となる
2001平成13☆独立行政法人水産総合研究センター発足により同法人所属の研究機関となる

資料館の写真ギャラリー

ギャラリー内の写真は資料館にある展示物のほんの一部を写したにすぎません。 見どころは他にもたくさんあります。

おさかな情報館

おさかな情報館の展示物

意外に知らないことが多かったことに気付ける施設

まあ、これはあくまで私がそう感じただけなのですが、釣り好き&魚好きを自称する私でさえも意外に知らないことが多かったなぁと感じたのが、ここおさかな情報館にある展示物の内容でした。
思わず「へぇ~、そうだったんだ!!」と驚かされることも多く、子供向けの施設だとたかくくっていた自分が少し恥ずかしくなりました(汗)

展示物はどれも興味を引くための工夫、また理解を助けるための仕掛け(ギミック)が施されており、これなら子供たちも十分に楽しめるなと思いました。ここで見たものを題材にして夏休みの宿題なんかにするのもいいかも知れませんね。

おさかな情報館の写真ギャラリー

ギャラリー内の写真は、おさかな情報館にある展示物のほんの一部を写したにすぎません。 見どころは他にもたくさんあります。

施設の基本情報

  • 施設名称
    さかなと森の観察園  国立研究開発法人 水産研究・教育機構 日光庁舎
  • 住所
    〒321-1661 栃木県日光市中宮祠2482-3
  • 電話
    0288-55-0160
  • ウェブサイト
    「さかなと森の観察園」の公式ホームページはこちら
    「さかなと森の観察園」の公式フェイスブックはこちら
  • 開園日
    3月20日~11月30日(12/1~翌3/19 の期間中は冬季休園)
    ※ 臨時休園などもあるため、事前に電話か公式フェイスブックで確認することをおすすめします
  • 開園時間
    09:00~17:00(3月20日~10月31日) ※ 入園は終了時間の30分前まで
    09:00~16:00(11月1日~11月30日) ※ 入園は終了時間の30分前まで
  • 観覧料金(魚のエサ付き)
    通常料金
     ・大人 300円  ・小人 100円(小・中学生)

    団体料金(20人以上)
     ・大人 240円  ・小人 80円(小・中学生)

    シーズンパスポート
     ・大人 1,000円 ・小人 350円(小・中学生) ※ 発券日から、その年の11月30日まで有効
  • 駐車場
    観察園入り口の左側に普通車が9台がとめられる、観覧者専用の駐車場があります。
    観察園の入り口向かいに無料の龍頭の滝りゅううずのたき下駐車場(大型13台、普通18台駐車可)があります。

さかなと森の観察園の入り口
施設の入り口左には観覧者専用の駐車場があります(普通車で9台の駐車が可能)
施設入り口の向かい側に、無料の県営駐車場(大型13台、普通18台の駐車が可能)があります
  • 園内は研究施設の一部です。深い池や流れの速い水路などがあるので注意が必要です。特に小さなお子さんを連れている親御さんの方は、子供から目を離さないでください。
  • 魚の病気を防ぐために、指定された場所以外での飲食は禁止されています。また、研究管理エリアへの立ち入りも禁止されています。
  • 盲導犬・聴導犬・介助犬等を除き,園内へのペットなどの持ち込みはできません。
  • 悪天候や強風等により臨時休園することがあります。
  • 新型コロナウィルスまん延防止対策のため、園内ではマスク着用・手指の消毒をお願いします。
  • 園内は全面禁煙となっています。

最後に

今回は中禅寺湖のほとりにある「さかなと森の観察園」について紹介しました。
もともと魚がいなかったという中禅寺湖が、鱒釣りの聖地とまで呼ばれるようになったのは間違いなくこの施設があったからに他ならないでしょう。
中禅寺湖に生息する魚たちの移植の歴史、さらに奥日光の観光近代化の流れなどについて肌で感じることのできる施設となっています。中禅寺湖が大好きだという釣り人、そして奥日光が大好きだという観光客の方も含めて是非とも一度足を運んでみてください。絶対に満足できると思いますよ!

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